23.09.15

富山の里山で見た、循環農法のあり方

河上めぐみ

里山で育ったという環境と、都会での5年の生活を経て、日本社会の中で「里山での農業」という仕事の必要性、大切さ、そしてやりがいと将来の可能性を大いに感じ、土づくりから収穫、そして届けるところまで一貫して行っている。里山に残る日本の資源を生かすべく、いのちを繋ぐ農業家として、体験や農業研修なども幅広く受け入れている。
https://doyuuno.net/
Instagram : @doyuuno1995

日本列島の中心に位置し、北陸4県を構成するひとつ、富山県。ここは日本海に面する湾を抱くように平野が広がっていて、その周囲は多くの山で囲まれている。この様子が県名の由来になっているという説もあるのだとか。

そんな富山県の特徴を一望できる位置で、農業と畜産業を営むのが「土遊野」の河上めぐみさんだ。就農したのは2010年。現在は両親から経営を引き継ぎ、農家としてだけではなく経営者としても活躍している。

彼女はどのような想いで土遊野を経営し、どのようなことをやっているのだろうか。そして、社会に何を伝えようとしているのだろうか。実際に足を運び、話を聞いてみた。

土遊野の圃場から見下ろせる富山平野

里山の持っている価値に気づき、就農

河上さんが生まれ育ったのは、土遊野の圃場がある「土(ど)」という名の集落。彼女の両親が、1974年に造林地への除草剤空中散布に反対して起こった環境保護活動「草刈り十字軍」をきっかけに、この場所に移住してきたのが始まりだ。

河上さんは、幼い頃、家業を継ぐつもりはなかったという。その気持ちに変化がで始めたのは、大学進学をきっかけに東京に出た頃から。「東京の生活はとても便利で楽しかったのですが、それと同時に、富山にしかない魅力があるとも気づきました」。

田んぼで使用している水は近くの山から湧き出たもの

そして、河上さんが目を向けたのは里山。季節の移り変わりを楽しめるし、そこで暮らす昆虫や動物たちのことも近くに感じられる。物理的にも精神的にも自然から距離を取ることで、里山が持っている価値に気づくことができたそうだ。

「限界集落や過疎化などネガティブなイメージの強い里山ですが、見方を変えれば、とても素敵な場所でもあるんです。日本の将来のことを考えても、国土の約40%を占めるという里山を見捨てるわけにはいきません。目の前にあるものを今の社会の価値判断だけでなく、次世代のことを想い評価することも大切だと思うんです」

パートナーである河上剛之さんも、彼女の考えに共感し、就農。現在は土遊野をリードする存在として活躍している。

「大変なことも多いですけど、基本的に農業は楽しいですよ」(剛之さん)

米は鶏の食べ物に、鶏の糞は田んぼに還っていく

棚田は栽培に手間がかかるが、美味しいお米が獲れるそうだ

土遊野の活動は、米栽培や平飼い養鶏など、多岐に渡る。河上さんは「やっていることは多いのですが、それぞれが有機的につながっているのが土遊野の特徴です」と語る。

例えば、土遊野は約30haの棚田と里山の麓の田んぼで米を栽培している。約3分の2の米は食用として出荷しているが、残りは自分たちで発酵させ、それを田んぼで雑草や害虫を食べてくれる合鴨にあげたり、鶏舎で飼っている鶏にあげたりしている。

「発酵のもとになるのは森の落ち葉にいる土着菌です。近くにある森で暮らす菌の力を借りることで、私たちの循環は成り立っているんです」

「合鴨たちは臆病で近寄ってきてくれませんが、彼らも土遊野の大切な仲間たちです」(めぐみさん)

発酵させた飼料をあげることは、腸内環境を整え、鶏たちの健康につながるとのこと

河上さんは、合鴨や鶏のことを「私たちの命を支えてくれる存在」として、とても敬意を払っている。「大切な存在だからこそ、きちんとしたものを食べてほしいと考えているんです」とも。

ちなみに、畜産を行っている農家は、ほとんどの場合、穀物を海外からの飼料に頼っている。自分で飼料となる穀物を育てるのは、お金も時間もかかってしまうためだ。こうした事実があったとしても自分たちで飼料を作る土遊野からは、かなり強いこだわりを感じられるだろう。

また、鶏をケージではなく平飼いで飼うのは、彼らの生活を考えてのこと。「狭い場所で暮らしている鶏よりも、のびのびと育った鶏の方が、美味しい卵を産んでくれると思うんですよね」。

色素の入った食べ物を食べていない鶏の卵は黄身の色が薄い

土遊野では、鶏たちの糞は堆肥にして、田んぼに撒いている。ここでは、有機物は無駄にされることなく有効活用されているのだ。

無駄にされることがないのは、動物たちの命も同じ。田んぼで働き終えた合鴨や卵を産み終えた親鶏を肉としてシェフや消費者に直接届けることで、しっかりと命の循環の環を繋げている。

「土遊野で育った合鴨や鶏たちは運動をしているため、肉が筋肉質なんです。コリコリとした食感は、他の肉にはないもので、これは特徴と言えるかもしれませんね」

農業は家族でする機会も多いとのこと

ここまで説明してきた土遊野の取り組みは、全体の中の一部。米や卵は、プリンや米粉クッキー、シフォンケーキなどの加工品の原材料にもなっている。

多くのことを手がけている土遊野では、かなりの労力がいるはず。河上さんはどのような工夫をしているのだろうか?

「富山の夏はとても暑く、外での作業は大変なことも多いです。AIGLEのアイテムは着心地もよく機能的にも優れているので愛用しています。このロングスリーブTシャツは肌触りが良い上日差しから肌を守ってくれて、作業後の疲労感がが全然違います。農作業には、実は夏でも長袖を着ていた方が総合的にはラクだったりします。

あと、ラバーブーツは使われているゴムが柔らかくて、とても動きやすい上に、そこまでムレが気にならないのもAIGLEならではです。こうして道具を工夫しながら、無理のない範囲で土遊野で働いてくれているメンバーと一緒に作業をしています」

「AIGLEのラバーブーツは、本当に使いやすいので農作業には欠かせません」(剛之さん)
「ウエストポーチは本当にスタイリッシュで機能的。作業時にも配達時にも欠かせません」(めぐみさん)

そんな土遊野が掲げている農業のあり方は「人と大地の絆を結び、いのちを繋ぐ、農業を。」だ。

それを実現する方法として「有畜複合循環型農業」を実践している。一言で説明するのは非常に難しいのだが、分かりやすく言うのであれば、資源を循環させながら農業と畜産業を両方とも行うというものだ。

こうした取り組みを行うようになった理由を、河上さんはこう語る。

「土遊野では、資源を無駄にしたくないという考えを突き詰めていったら、現在のようなかたちになりました。種まきから食べるところにまで向き合っているのが、土遊野の農業です。そして、たくさんの生き物に支えられて生きていることや命の繋がりを多くの人に伝えたいと考えています」

本当の意味での持続可能な暮らしとは

「自然豊かな場所での暮らしは、子どもの感性を自然環境が育んでくれるのです」(めぐみさん)

資源を循環させることにこだわった土遊野と、それを行動に移してきた河上さん。最後に、彼女は、自然とともにある暮らしはどのように実現できると考えているのだろうか。

「私たちは1人で生きているということは決してありません。人と自然との命の繋がりを感じて生きてみることが大切なのではないでしょうか。里山は自然が作ったもので、人間は作りたくても絶対に作れません。そんな里山は先代たちが残してくれたものでもあります。だから、私たちは今の暮らしがあるのです

例え、誰かが価値がないと言ったとしても、しっかりと可能性を見出せば、里山に対する評価は変わっていくはずです。先代たちが残したものを未来に繋ぐことこそ、自然と共生できる持続可能な暮らしに繋がるのではないでしょうか」

photography | Naoto Date
Text | Shotaro Kojima

Edit