23.10.25

富士山の麓で知る、日本のハーブの可能性

平野優太

1992年生まれ。神奈川県横浜市出身。スケートボードやサブカルチャーに影響を受け、16歳でアパレルブランドを主宰。22歳で兼ねてから興味のあった植物を学びに渡豪。その後自然豊かな活動の地を求め山梨県、富士山の北麓に拠点を移し、新たなハーブの可能性を体現するべく、HERBSTANDの代表として事業を行う。
https://www.tabechoku.com/producers/20077
Instagram : @herbstand

東京の都心から車で約1時間30分の場所に位置する、山梨県富士吉田市。レトロ商店街としても知られる「本町通り商店街」は、富士山へと向かうようにまっすぐ伸びていて、ここでの暮らしは富士山が中心にあることが分かる。また、この地域は江戸時代の頃、薬草の採取地としても知られていた。

そんな場所に拠点を構え、日本にハーブカルチャーを広めようと活動しているのが「HERBSTAND」の平野優太さんだ。

彼はどのような想いでハーブの魅力を多くの人に伝えているのだろうか? そして、今後はどのような活動を行おうとしているのだろうか? 実際にお話を聞いてみた。

ハーブカルチャーを日常に

平野さんがパートナーの真菜実さんと一緒に、HERBSTANDを始めたのは2018年のこと。きっかけは2人で訪れたニュージーランドでの出来事だった。

「ニュージーランドには植物を大切にする文化が根付いていて、ハーブはとても身近な存在です。僕たちのホストファーザーは、猟から帰ってきた後に、庭から新鮮なハーブを摘んでハーブティーを淹れてくれました。それくらい日常生活に馴染んでいて、それがとてもかっこ良く感じたんです」

日本でもハーブを身近な存在にしたい──。そんな想いを抱えて、2人で富士吉田市に移住。そこからは、ポップアップのドリンクスタンドとしてフレッシュなミントを使ったモヒートなどを提供するようになった。

そして、ひょんなことから、きっかけが訪れる。

「自治体で管理ができない休耕地を使ってくれないか?という相談がきたんです。富士吉田は水が綺麗なので、栽培環境としても良いなと考え、仲間と一緒に畑を管理するようになりました」

こうした出来事があり、HERBSTANDとしてハーブを栽培したり加工品を作ったりすることになる。今では、そこから一歩先へと進んでいる。

森に自生する植物をハーブだと捉えて、価値がないと思われている植物にも使い道があることを社会に伝えているのだ。

出荷用に収穫したクロモジの葉

価値のない植物は一切ない

平野さんと一緒に森を歩いてみた。「これはアブラチャンと言って、樹皮に油が多く、松明に使われることもあります」、「収穫したてのヒノキは、ぜひ口の中に入れてみてください。フレッシュな香りが広がりませんか?」、「松って、実は出汁が取れるので、ブイヨンにしている人もいるんですよ」など、時間にすると5分も経っていないにもかかわらず、たくさんのことを教えてくれる。

山椒の実を収穫している様子

アブラチャンの実は柑橘のような香りがする

「クロモジは産地によって味が違うんです。僕はコーヒーと同じように、産地の味が楽しめるようになったら面白いと思っています」

平野さんの話を聞いていると、ハッと気付かされることが多い。クロモジについても、考えてみれば当然のこと。とはいえ、それを知っていたかというと決してそうではない。彼と一緒に森を歩いていると、価値がない植物はないと考えられるようになる。

「ビャクシンというホームセンターでも売られているような庭木があるのですが、それは実をつけます。とても香りが良くて、僕は和製ジュニパーベリーのように捉えているんです。これは蒸留する時にも使えると思いますよ」

森を歩いていると鹿と出くわすこともあるようだ

日本の森にもハーブがたくさんある

森を歩いている時の平野さんの話は、植物だけではない。「渋谷のキャットストリートの生態系は、街を反映するかのように混沌としていて面白いんです」や「ディズニーランドの植栽は、かなりこだわっていますよ」など、彼の興味がどこに向いているのかも知ることができる。

そして、自分のハーブに対する考え方を教えてくれた。

「ハーブの定義って、人に有益な植物というものなんです。ハーブと聞くと、ミントやバジルが思い浮かぶかもしれませんが、実はそれだけではありません。日本の森にもたくさんのハーブがあるんですよ。もっと多くの人に、日本のハーブが持っている魅力も伝えていきたいですね」

「畑でも山でも、両方の場所で使えます」(平野さん)

平野さんは森の中でとても生き生きとしていて、彼の植物に対する熱意が伝わってくる。その流れで、AIGLEの「レスフォープラス2 クロッグ」についても話してくれた。

「このラバーアンクルブーツは、かなり調子が良いです。山道でも滑らないですし、水にも強いです。履きやすく、脱ぎやすいのも好きなところですね。今は毎日履いていますよ」

身近にあるハーブを広める

HERBSTANDは、このように今まで価値がないとされてきた植物の使い道を生み出すことで、新たな価値を見出している。自分たちでも味の研究をしているが、これを後押ししているのが料理人たちの存在だ。

「関係性のあるシェフやパティシエ、バーテンダー、茶師、植物療法士、蒸留家など様々なプロフェッショナルに植物をお送りして、一緒にその植物の使い道を深掘りして可能性を探究しています。こうした結果として得られた知見を他の人にも伝えることで、その植物の価値が次第に高まっていくのです」

HERBSTANDを通して、多くの植物に新たな価値を見出してきた平野さん。今、彼はどのようなことをやりたいと考えているのだろうか?

「最近は浜辺に生えている植物が気になっていますね。もしかしたら何年後かは、富士吉田だけではなく、新たな拠点として海沿いの土地で植物を採取しているかもしれませんね」

意識しなければ見過ごしてしまうような植物にも、しっかりと価値がある。視点を変えれば、全ての植物に可能性を見出すことができる。HERBSTANDはこうしたことを社会に伝えようとしているのかもしれない。

乾燥させた植物を保管し、それをブレンドした上で出荷することもあるという

photography | Naoto Date
Text | Shotaro Kojima

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