1853年の創業から今も変わらずフランスを拠点に、農家のための長靴を生産し続けているAIGLEが「SOIL TOI(ソイル トワ)」-土とあなた- という理念のもと、国内の“土”と共に生きる様々なスタイルをもった農家の方々を紹介します。
大地と共に生きる、地球人として自然と共生する、そんな大きなテーマを考えるときのヒントやきっかけがそこにはあります。
NORA FARMは、千葉県我孫子市で西洋野菜を中心に年間100種類ほどの野菜を栽培する有機農家。2008年に代表の中野牧人さんが友人と共に耕作放棄地を借り、開墾するところから始まった。
「最初は畑の横にスケボーパークを作ろうなんて話しながら始めたんですが、耕作放棄地なので木も生えているし、ヨシのかなり太い根が広範囲に張っていて。まずは、それを撤去するところからでした。農家さんに短期研修に行ったり独学で学んだり、だんだん農業になっていき、2011年に新規就農しました。今は飲食店さんとの取引と個人宅配の野菜セットの販売をしています。あとは地元で手に入る有機資材を使って堆肥を自分たちで作っています。最近はこの辺りでも高齢で畑作業に手がまわらなくなる農家さんが多く、うちの畑も借りて欲しいと頼まれるので、広い畑を借りてもちむぎの栽培も始めました。」
現在は中野さんの他に、関根さん、安生さんの同世代3名で運営していて、畑で作業をしていても、出荷の梱包作業をしていても、みんながとても楽しそうだ。部活動のような、気の合う仲間と遊んでいるような、そんな空気が流れている。
3人それぞれの経歴もまた面白い。
関根さんの農業のルーツはブラジルだという。
「大学時代にポルトガル語を学んだことがきっかけでブラジルに1年間、ファームステイをしていました。働きながら野菜の栽培のことを調べていたら、思った以上に面白そうだなと。それに、朝から畑仕事をして、みんなでご飯食べて、日が沈んだらみんなでお酒飲んでっていう生活がすごく楽しくて。
ブラジルから帰ってきてからは、蔵前のNui.というゲストハウスで働き始めました。その時に牧人さんが月に1度Nui.に野菜を販売しに来ていて、自分も農業に興味があったので畑をお手伝いさしてもらえませんかとお願いして、ちょこちょこ手伝いに行かせてもらっていました。ただ、まだそこで「NORA FARM」に就職したわけではなく(笑)。
ブラジルでよく食べていて好きになったキャッサバという作物を栽培しているところを探していたら、大学のゼミの教授からお話をいただいて、奄美大島の南にある徳之島の農業法人に働きに行くことになりました。家からすぐに綺麗な海で通勤も気持ちよくて最高な環境でした。2年半働かせてもらい、そろそろ関東に戻ろうと思い、満を持して牧人さんに連絡しました。」
安生さんは、元々飲食店経営者であり農家でもであった。
「元々企業がやっている都内のレストランで修行をしてまして、独立を考えたタイミングで埼玉の本庄市に耕作放棄地を借りられる話があったので引っ越して畑を始めました。そしたら農業にどハマりしちゃって、研修なしで農家になりました(笑)。今思うと無謀ですよね!案の定やっぱり食べられなくて。ただ、お店はいつでもやれる確信はあったので、農業を続けるためにレストランを始めることに。元々お店をやることが夢だったんですが、気付いたらお店をやることが農業を続けるための手段になってました(笑)。地元の柏市に戻って畑を新しく借り直しながら飲食店をオープンさせて、ちょうどその時ぐらいに、野菜の生産者としてマルシェに出店したら隣のブースが牧人君で。その時からの仲ですね。」
それぞれ違う角度で農業に携わってきた3人が集まり、真摯に畑に向き合いながら楽しくやっている姿に、見ているこちらもワクワクしてくる。3人でやることの意味や特性について聞いてみた。
「1人の時とは全然違いますね。2人でも違います。1人の限界って結構すぐ見えちゃって。まとめて市場に出荷する形態ではないので、1人で栽培と販売をやらないといけなくて、販売に時間を半分使っちゃうと野菜がなくなっちゃうし、畑にいるとその時は収入が無い。でも2、3人になると分業できて。最近はセッキー(関根さん)がよく出店に行ってくれるんで、野菜は僕たちで溢れるほど作るから安心して行って来て!っていう感じです。」(安生さん)
「ただ、新規就農希望の人が来たらこのやり方やめた方がいいって毎回言ってます(笑)。たまたま、うちはうまくいってるけど再現性ないよなぁって。」(中野さん)
これだけ楽しそうに農業をやってる人たちが、農業の何に魅力を感じているのか。素朴な質問をぶつけてみた。
「それこそ最近出店に行くようになってから、対面でお客さんに会えることはすごく良いと思ってます。」(関根さん)
「自分で作ったものが届けられる感動はあるよね。感想もダイレクトに聞けるし。よく顔の見える農家さんが良いって話があるけど、顔を見てうれしいのはお客さんだけじゃなくて、僕たちもうれしい。変わった野菜も作ってるので、これ買ってくれたの誰なんだろうとか。」(安生さん)
「あとは余計なモチベーションや理由付けがいらない仕事というか、大そうなミッションとかパーパスみたいなものがなくたって”食べ物を作る”っていうもので、すごいシンプルで生きるために不可欠な仕事だなっていう。
何のためにやってるかが、割とシンプルなのは好きなポイントです。ただ、家族のために自給するだけだったら疑いようはないんですけど、いっぱい作っていっぱいの人に食べてもらおうとすると、その当初のピュアなモチベーションがグラグラしてくるんですよね。でも、割とそれを昨年から始めた「援農会」の仕組みで、もう一回考え直すきっかけをもらいました。」(中野さん)
NORA FARMさんが実施されている「援農会」について聞かせていただけますか?
「農業体験させてくださいって声はちらほらあったので、どういう風に受けいれるか話し合い、「援農会」として会員制にしちゃおうという話になりました。
会費(30,000円/年)も設定させてもらったので、最初は3~5人くらい来たら良いほうかなと思いながら応募をかけてみたら、初日に20人も応募があって。意外と需要があることに驚きました。今年で3年目になります。今は週に3回援農の日を設けて、畑仕事を手伝ってもらっています。最初は農業体験をしたい人に場所を提供して、作業を手伝ってもらう代わりに野菜を持って帰ってもらうっていうことで始めたんですが、実際作業的にもすごく助かりますし、会員の人たちも農「業」ってよりは、野菜のおいしさとか、畑の季節感とか、農の面白さの部分をピュアに味わえているのかなと思います。効率化をせざるを得ない農業からこぼれた落ちた「農」的なものを「援農会」の皆さんが感じてくれていたら嬉しいです。」
今後の展望はありますか?
「大工の修行に出ます(笑)。もちろんNORA FARMはやめませんが、やっぱり将来自給的な暮らしをしたくて。食べ物を作ることはこれまでやってきたので、次は生活する場所や生活を支える大工仕事全般を学びに行ってきます。農業技術をもっともっと磨いていく10年にするのか、生きていく力をアップさせる10年にするのか、すごく悩んだ結果、後者を選びました。」(安生さん)
「援農会をやり始めていろんな方が集まってきて、コミュニティーが出来上がっていく中でこういった場所があるから助け合ったり補い合ったりできるんだなと感じます。こういう場所が各地に増えていったら、仕事をしながら安心してイキイキとした生活が送れる人が増えるんじゃないかなと妄想を描いています。」(関根さん)
「この先農業の機械化、大規模化が進めば、農家の数もかなり少なくてよくなるじゃないですか。自分たちのような小さな農家は、畑に遊びや暮らしの場のような役割を持たせても良いと思うんです。農家ではない人たちが農業の現場にもっと入ってきてもいいと思いますし、そんな場を作りたいですね。ただ、生産者としては場づくりだけじゃなくて野菜作りもちゃんとしないといけないので、その辺のバランスが今考えどころですね。最近は野菜の栽培よりもそんなことばっかり考えちゃってます(笑)。」(中野さん)
写真・取材記事 :SHOGO
モデル業の傍ら自身でも農地を借り、時間が許す限り作物を育て、収穫し、食す。農家見習い兼モデル。
IG https://www.instagram.com/shogo_velbed/
NORA FARM
2008年に中野牧人氏が友人と千葉県我孫子市で耕作放棄地の開墾をはじめ、2011年に新規就農。
現在3人のメンバーで運営。農薬・除草剤・化学肥料不使用で西洋野菜を中心に有機栽培をおこなう。
H.P https://norafarm.com
IG https://www.instagram.com/nora_farm